東京都スクールカウンセラー
労働実態調査報告
平成7年(1995年)に東京都公立学校においてスクールカウンセラーの配置が始まってから、27年の歳月が経過しました。当初は研究委託事業として開始したスクールカウンセラーの配置も、現在では当たり前に都内の公立学校に配置され、職種として定着しました。心理の専門家が学校で職業として支援に携わる機会を提供して下さり、東京都教育委員会をはじめ学校関係者の皆さまに、深く感謝申し上げます。
このように東京都教育委員会や学校関係者の皆さまのご尽力により、スクールカウンセラーが職種として定着したことは喜ばしいことですが、非常勤で不安定な雇用条件であることから、労働実態は決して十分に恵まれたものとは言えず、学校現場で安心して専門性を発揮することに困難を感じるスクールカウンセラーは少なくないと推測されていました。
しかしながら、スクールカウンセラーが安心して専門性を発揮し、学校でより多くの貢献ができる労働環境とはいかなるものなのか、調査・検討が行われることはありませんでした。
そこで、私たち心理職ユニオンは東京都スクールカウンセラーの労働実態を明らかにし、等閑にされてきた課題の改善を求めるべく調査を実施しました。早急な処遇の検討と改善が求められます。
目次
調査の概要
1調査の目的
2調査期間
3方法
4調査対象
5調査内容
結果の概要
1基本属性
(1)性別
(2)年齢
(3)資格
(4)資格取得後の臨床経験年数
(5)都SCの臨床経験
(6)勤務校数
(7)都SC以外の兼業の有無
(8)兼業先の数
(9)兼業の領域
2都SCのストレスについて
(1)ストレスを感じている割合
(2)ストレス要因
(ア)時間外の無償労働(残業について・休憩の有無・持ち帰り仕事)
(イ)雇用の不安定さ(契約更新の不安・会計年度任用とSC・配置校数減)
(ウ)社会保障が無いこと(結核健診の費用負担・自由記述より)
(エ)教職員・管理職との関係(理不尽な要求の有無・相談先・解決の有無・
管理職への相談の有無・管理職に相談できない理由)
(オ)相談室の設備(自由記述より)
(カ)休暇制度(連絡会出席のための調整について・妊娠、出産、子育てについて)
3都SCの仕事の満足度について
(1)やりがいを感じている割合
(2)SCの仕事の専門性
(3)都SCの収入
(4)経験加算について
4都SCの勤務形態の理想
都SCの労働条件改善に向けてのポイント
1【時間外の無償労働について改善】
2【SC相談窓口の設置】
3【雇用の安定化(会計年度任用職員の問題の改善)】
(1)雇用の安定、無期雇用
(2)会計年度任用とSC評価の問題・SCの人材育成の視点
(ア)校長評価の評価基準が不明確であり、人材育成の視点が欠けていること
(イ)心理職の専門性は評価されにくい
(ウ)管理職の評価のみで採用・不採用が決定されること
(3)合否通知・配置校通知の時期の改善
4【社会保障】
(1)健診の無料化
(2)連絡会出席のための連絡会の在り方について
(3)ライフイベントと雇用
5【現場のSCの声を今後のスクールカウンセラー活用事業に反映する】
※掲載している自由記述については、個人が特定されないように若干の編集を加えていますが、
趣旨や内容等を変えたものではありません。
調 査 の 概 要
1 調査の目的
本調査は、東京都の公立学校で働くスクールカウンセラー(以下、都SC)の働きかたについて調査し、勤務の実態を明らかにしながら心理職の社会的地位の向上と処遇の改善を進めることを目的に実施した。
2 調査時期
2021年9月1日~10月末日。
3 方法
東京都の全公立小・中・高等学校のスクールカウンセラーへ郵送にて依頼。すべて郵送で回収。
4 調査対象
東京都公立学校スクールカウンセラー1514名を対象にアンケート調査を依頼し、SC全体の46%にあたる702通の回答が得られた。
5 調査内容
東京都公立学校スクールカウンセラーの勤務実態について、ストレスや残業の有無、理想の勤務形態などの質問への回答を求めた。また、フェイス項目として、性別や都SCとしての勤務年数、兼業の有無などを尋ねた。
結果 の 概 要
1 今回のアンケートに回答した都SCの基本属性
(1)性別
都の性別は女性が79%で男性が20%であり女性が圧倒的に多い。
(2)年齢
35~39歳が17%、45~49歳が16%、40~44歳が13%、50~54歳が13%、30~34歳が12%、55~59歳が11%、60~64歳が8%、65歳以上が7%、20~29歳は3%で20代が少なく、30代~50代が多数を占める(図1)。
図1 都SCの年齢分布

(3)資格
702人中672人が「臨床心理士」資格を有し、643人が「公認心理師」資格を有している。その他、大学教授、精神保健福祉士、特別支援教育士などの回答があった。
(4)資格取得後の臨床経験年数
10~15年未満が28%、5~10年未満が22%、15~20年未満が17%、1~5年未満が13%、20~25年未満が11%、25~30年未満が4%、30~35年未満が2%、35~40年未満が1%、
1年未満が1%で10~20年未満の都SCが約半数を占める(図2)。
図2 資格取得後の臨床経験年数

(5)都SCの臨床経験
5~10年未満が37%、1~5年未満が24%、10~15年未満が17%、15~20年未満が10%で都SC経験年数10年未満の割合が68%を占める(図3)
図3 都SCの経験年数

(6)勤務校数
「1校」が51%、「2校」が29%、「3校」が20%で1校勤務が最も多い。
(7)都SC以外の兼業の有無
93%が「している」、6%が「していない」と回答。多くの都SCが他の仕事と掛け持ちをしている。
(8)兼業先の数
掛け持ちをしていると回答した都SCの37%が「一か所」、32%が「二か所」、31%が「三か所以上」で掛け持ちをしていると回答。
(9)兼業の領域
掛け持ちをしていると回答した都SCの他の仕事の領域としては、「教育」が最も多く次に「医療」「福祉」が続いた。(図4)
図4 都SCの他の職場の領域(複数選択)

2 都SCのストレスについて
(1)ストレスを感じている割合
「職場においてストレスとなる要因があるか」という問いに対し、87%がストレス要因があると回答(図5)。厚生労働省による令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 54.2%である。
今回の調査結果から、都SCは、職場においてストレスを感じている割合がかなり高い状態にあると言える。
図5 職場においてストレスとなる要因があるか

(2)ストレス要因
職場においてストレスとなる要因があると回答した都SCのうち、ストレスとなる要因として多く選ばれたのは、「時間外の無償労働」、「雇用の不安定さ」、「社会保障がないこと」など労働環境に関する要因である(図6)。
図 6 職場においてストレスとなる要因(複数選択)

(ア)時間外の無償労働
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として最も多く選ばれたのは「時間外の無償労働」である。
「都SCの勤務で残業をしているか」という問いに対し87%が残業をしていると回答(図7)。
図7 都SCの勤務で残業をしているか

残業をしていると回答した都SCのうち、90%が残業の調整は「できていない」と回答(図8)
図8 都SCの勤務で残業の調整ができているか

一回の勤務における職場での残業時間を問う設問に対しては、「1~2時間未満」が52%、「1時間未満」が22%、「2~3時間」が17%と回答した(図9)。
図9 一回の勤務における残業時間

休憩時間はとれているか、という問いに「とれていない」という回答が多い(図10)。
*複数校を同時に勤務している場合は、1校目をA、2校目をB、3校目をCとして、それぞれの勤務校について回答を求めた。
図10 休憩時間はとれているか

持ち帰りの仕事をしているか、という問いには約半数ずつの回答(図11)。
*図10と同じように、複数校を同時に勤務している場合は、1校目をA、2校目をB、
3校目をCとして、それぞれの勤務校について回答を求めた。
図11 持ち帰り仕事はしているか

(イ)雇用の不安定さ
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として1番目に多く選ばれたのは「雇用の不安定さ」である。
この先、雇用契約が意に反して更新されなくなる可能性についてどのように感じているか、という問いに対し69%が「不安に感じる」、22%が「やや不安に感じる」、 5%が「あまり不安に感じない」、4%が「どちらともいえない」と回答した(図12)。
図12 この先雇用契約が更新されなくなる可能性について

都SCの次年度の採用の合否は校長評価によって決定されるが、会計年度任用職員という雇用形態は、都SCの業務内容や働き方に合う制度だと思うか、という問いに30%が「どちらともいえない」、28%が「あまりそう思わない」、18%が「まったくそう思わ ない」、20%が「ややそう思う」、3%が「とてもそう思う」と回答(図13)。
図13 制度が業務内容や働き方に合っているか

自由記述より1

希望していないのに配置校数を減らされたことや、満期6年前に異動させられたことなどはありますか、という問いに対し13%が「ある」86%が「ない」と回答(表1)。
表1 配置校数を減らされたことや満期6年前に異動させられたことがあるか

特に、配置校数を減らさたことや、今後減らされることに関しての不安を訴える多くの意見が自由記述欄記載されていた。
自由記述より2

(ウ)社会保障がないこと
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として三番目に多く選ばれたのは「社会保障がないこと」である。
勤務校を管轄する自治体(教育委員会)の費用負担によって健康診断を受けているかを問う質問に対し、76%が自治体負担では受けていないと回答した。(図14)
図14 健康診断費用を自治体負担で受けているか

社会保障に関し、自由記述欄に不安を訴える多くの意見が記載されていた。
自由記述より3

(エ)教職員・管理職との関係
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として「教職員・管理職との関係」は四番目に多く選ばれた。
職場で理不尽な要求、不快な対応、ハラスメントなどを受けたと感じたことはあるか、という問いに対し47%が職場で理不尽な要求をされたことがある、52%が職場で理不尽な要求をされたことはない、と回答した(表2)
表2 理不尽な要求をされたことがあるか

自由記述より4

理不尽な要求をされたことがあると回答した都SCに、それらの対応を受けたと感じたことについて、どのような対応をとったか、という問いに「家族・友人などに相談した」、「誰にも相談しなかった」が多く選ばれた(図15)。
図15 理不尽な要求への対応(複数選択)

理不尽な要求をされたときに誰かに相談したと回答した都SCに対し、相談の結果それらの問題は解決したか、という問いに「解決した」が15%、「解決しなかった」が40%、「どちらともいえない」が39%と回答した(図16)。
図16 相談の結果、解決したか

理不尽な要求をされたときに、誰かに相談したと回答した都SCに対し、その勤務校でそれらの対応を受けたとき、管理職には気軽に相談できたか、という問いに「できなかった」が76%、「できた」が20%と回答した(図17)。
図17 管理職に気軽に相談できたか

上記の設問で、管理職への相談をためらった要因として考えられるものはどのようなものか、という問いに対し「その他(自由記述)」、「管理職からの評価に悪い影響を及ぼさないか気になる」、「ハラスメントや理不尽な要求について、管理職の問題意識が低いから」が多く選ばれた(図18)。なお、「その他(自由記述)」については「管理職によるパワハラのため管理職への相談をためらった」という内容が多くを占めた。
図18 管理職への相談をためらった理由

(オ)相談室の設備
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として「相談室の設備」は五番目に多く選ばれた。この項目に関し、自由記述欄へ多くの記載があった。
自由記述より5

(カ)休暇制度
ストレスとなる要因がある、と回答した都SCが選んだストレス要因として六番目に多く選ばれたのは「休暇制度」である。
東京都の連絡会と各自治体の連絡会出席のために、本来の他の職場の勤務を休んだことはあるか、という問いに対し「はい」が58%、「いいえ」が41%と回答した。(図19)。
図19 連絡会のために他の勤務を休んだか

東京都の連絡会と各自治体の連絡会出席のために本来の他の職場の勤務を休んだことがあると回答したSCが、勤務をどのように調整したかについては、「年休などで対応し収入は確保されている」が最も多く、次に「勤務日の変更をする」「欠勤」が多かった。(図20) 。
図20 連絡会のための休みをどう調整したか

妊娠出産子育ては、働き続ける上で障害になると思いますか、という問いに対し合計75%が「とてもそう思う」、「ややそう思う」と回答(図21)。
会計年度任用職員制度導入後、産休はできたが育児休暇はない。
図21 妊娠出産子育ては働き続ける上で障害になるか

3 都SCの仕事の満足度について
(1)やりがいを感じている割合
「あなたは仕事へのやりがいをどの程度感じていますか」という問いに対し、52%が「とても感じる」、40%が「やや感じる」、4%が「どちらともいえない」、2%が「あまり感じていない」、「全く感じていない」は0%であった(図22)。
内閣府による平成21年度 インターネット等による少子化施策の点検・評価のための利用者意向調査によると"自分の仕事の内容・やりがい"について「満足している」と回答した者は9.1%、「どちらかといえば満足している」は46.3%、「不満である」と回答した者は12.7%、「どちらかといえば不満である」は31.9%である。
(参照:https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/cyousa21/net_riyousha/html/2_4_2.html)
都SCは仕事にやりがいを感じている割合が92%に達し、非常に高い数値である。
図22 仕事へのやりがいをどの程度感じているか

(2)SCの仕事の専門性
都SCは専門性の高い仕事だと思うか、という問いに「とてもそ う思う」と回答した者は66%、「ややそう思う」は32%、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」は0%である(図23)
図23 都SCは専門性の高い仕事だと思うか

(3)都SCの収入
いまの都SCの収入に満足しているか、という問いに36%が「とても満足している」、47%が「やや満足している」、11%が「どちらともいえない」、3%が「あまり満足していない」、2%が「全く満足していない」と回答(図24)。「とても満足している」と「やや満足している」を合わせると83%に達する。
図24 都SCの収入に満足しているか

都SCの収入の主たる使い方を問う質問に対し、60%が「生活費の主要な部分」、28%が「生活費の補助」、8%が「貯蓄」、2%が「趣味や娯楽」と回答(図25)。
図25 都SCの収入の使い方

(4)経験加算について
都SCの仕事は経験によって給料が上がる経験加算を導入すべきだと思うか、という問いに対し、38%が「ややそう思う」、31%が「とてもそう思う」、22%が「どちらともいえない」、7%が「あまりそう思わない」、2%が「まったくそう思わない」と回答(図26)
図26 経験加算を導入すべきか

4 都SCの勤務形態の理想
現在勤務している都SCが考える、今後の理想的なSCの勤務形態についての質問に対しては、72%が「現在と同じく1校につき38日勤務するが、雇用の安定性が保たれ福利厚生もある(兼業可能)」、7%が「現在と同じく会計年度職員として1校につき38日勤務する(兼業可能)」、同じく7%が「2-3校を拠点校方式の巡回で、週5日勤務する(兼業不可)」、5%が「1つの勤務校に毎日(週5日)出勤する(兼業不可)」、8%が「その他」と回答した(図27)
図27 理想の勤務形態

自由記述より6
