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2023年2月7日

 

衆議院議員 萩生田 光一 殿

心理職ユニオン

 

 

質問状

萩生田議員の国会の質疑における発言について

 

 2023年1月30日の衆議院予算委員会での質疑において、萩生田議員は、いじめ、不登校、貧困が深刻化しているなか、「スクールカウンセラーですとかスクールソーシャルワーカーといった専門スタッフは学校に常時いるわけではありません。心理や福祉などの専門知識を持った教師が常にいることによって、子どもたちが必要な時にいつでも相談できる体制が必要だと思います」として、教師が心理の専門性を身に付けることが望ましいと主張しています。

 しかし、こうした方向性には強い疑問を持つとともに、その発言の中でスクールカウンセラーの専門性や役割を軽視する発言がありましたので、私たち心理職ユニオンは2月2日に萩生田議員の事務所に問い合わせをいたしました。その際、私たちの認識に誤解があるという回答を頂きました。そのため、真意を確認させていただくべく、萩生田議員の発言に対する私たちの意見と質問を送らせていただきます。ご回答のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

1.スクールカウンセラーの専門性や現在の役割についての疑問

 

 萩生田議員は発言の後半で「ソーシャルワーカーに相談したいけど、来週の火曜日の午後3時10分から15分ねって言われてもですね、担任の先生としても自分のクラスの子をですね、その先生に来週の水曜日の3時10分からだけお預けするっていう事だけでは解決しないと思います。家族の構成だとかいろんな背景を知っている人たちがいて、初めて問題の解決ができると思います」と発言しています。この発言からは学校における相談活動の実際についての萩生田議員の無知と、現在のスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの役割・貢献を否定・軽視する態度が窺え、強い憤りを感じます。まるで現在のスクールカウンセラーが「家族の構成だとかいろんな背景を」知らずに児童・生徒に対応しており、問題解決に役立っていないかのような発言です。

 

 現在、学校で働く多くのスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーは非常勤職員であるため、面談の時間も限定的です。しかし時間が限定された相談が「問題の解決」に貢献できないわけではありません。児童・生徒にとって学校は日常空間、生活の場です。生活の場で悩みを他者と共有することは、時に非常に難しく、怖いことでもあります。そこで例えば私たちスクールカウンセラーは外部からやってきた専門家として、約束された時間と安全が保障された空間を提供することによって、児童・生徒が安心して悩みを表現し、問題に向き合えるように心理的支援を提供します。つまり、限定的な時間でなされる面談だからこそ、保護者や生徒・児童にとって重要な意味を持つのです。むしろ、問題となっているのは、勤務時間に対して相談件数が多く、約束の時間(予約時間)の確保が難しくなる場合が多いことです。

 

 萩生田議員の発言からは、このような学校における相談活動の実態についての無知が窺えます。

 また萩生田議員の発言からは、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーは「家族の構成だとかいろんな背景」を知らず、そのような人には「問題の解決」ができないと考えていることが窺われます。そもそも、スクールカウンセラーは可能な限り相談者の背景事情について情報収集をしますので、スクールカウンセラーが「いろんな背景」を知らないというのは実際の相談活動の在り方から大きく乖離しています。相談状況によっては、そのような背景事情を事前に取得していない場合もありますが、それでも相談者との面談のなかで適切な心理的アセスメントを行っていくことは、スクールカウンセラーの専門性の一部です。また相談後も相談者のニーズに合わせた形で教職員と情報を共有し方針の検討をしつつ、コンサルテーションを実施しています。

 さらに、萩生田議員のこのような発言は、現在スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの支援を受けている児童・生徒や保護者に大きな不安を与えるのではないかと当ユニオンは強く危惧しています。相談活動は児童・生徒、保護者との信頼関係によって成り立ちます。今回の発言に含まれているスクールカウンセラーの専門性の有無や相談の継続性は、相談活動にとって非常に重要な要素です。それらを否定する発言は、相談者との信頼関係を損なう可能性があります。

 上記の理由から、萩生田議員の発言には現場で奮闘しているスクールカウンセラーとして強い憤りを感じるとともに、保護者や児童・生徒への不安を惹起しかねないと考えています。この点につき、誤解があるならばきちんと説明していただきたいと思います。

 

2.教職員が心理の専門知識を持つことへの疑問

 

 萩生田議員は「心理や福祉などの専門知識を持った教師が常にいることによって、子どもたちが必要な時にいつでも相談できる体制」を、子どもをめぐる問題についての解決策としています。教職員が心理や福祉を学ぶことそのものは望ましいかもしれませんが、それによって現在の心理・福祉の専門家の支援を排除し、教職員の対応に替えることは従来の国の政策と矛盾するものです。これまでのスクールカウンセラー導入の経緯などに照らして疑問を感じます。

 スクールカウンセラーの事業は、いじめや不登校の問題が深刻化していた1995年以降に導入が進められ現在に至りますが、外部の専門家を学校に配置する理由の一つに、教職員の負担軽減や外部性の担保が指摘されてきました。教職員が心理の専門性を身に付けるというのは、こうしたスクールカウンセラー導入の経緯と逆行するものではないでしょうか。

 実際、スクールカウンセラーは、保護者や児童・生徒から「スクールカウンセラーにしかこういう話はできない」と言われる経験を誰もがしています。スクールカウンセラーの外部性ゆえに話しづらいことでも話せるのであり、学校内部に所属し学習や生活面での評価をする立場である教職員が心理の専門性を身に付けることで問題が解決するというのは浅薄な発想であると感じざるを得ません。また、教職員の長時間労働が大きな社会問題となっている中では非現実的な対策であるとも感じます。

 また、萩生田議員はスクールカウンセラーを「たまたま学校に来ていただいてる」「心理の専門家」と説明していますが、スクールカウンセラーは「たまたま」ではなく、1995年以降文部科学省によって各学校への配置が進められており、教育委員会が実施する採用試験に合格した心理の専門家です。ここにも、スクールカウンセラーを軽視する姿勢が見られます。

 

3.教職員とスクールカウンセラーの協働関係のありかたについての疑問

 

 現在、文部科学省では「チーム学校」をコンセプトとして、教職員とスクールカウンセラーなどの様々な専門職が、その専門性を組み合わせつつ協働して児童・生徒の育ちや学びを支えていくことを掲げています。萩生田議員の発言は、スクールカウンセラーの専門性や貢献を軽視し、また教職員の仕事を過重化させようとしており、このチーム学校の方針と逆行しています。

 是非、チーム学校のコンセプトが現場でも実現するような方向性を、政府として打ち出していただきたいと思います。

 

4.東京都スクールカウンセラーの勤務実態について

 

 当ユニオンでは東京都公立学校スクールカウンセラーを対象とした労働実態調査を2021年9月1日から2021年10月31日にかけて実施しました。今回の調査によって、現在のスクールカウンセラー活用事業における実際のスクールカウンセラーの労働実態が浮き彫りになりました。いくつかのデータを抜粋して紹介したいと思います。

 

①会計年度任用職員としての不安定雇用

 

 当ユニオンのアンケート回答者のうち、「この先雇用契約外に反して更新されなくなる可能性について」「不安に感じる」と回答した人は、91%にのぼりました(「不安に感じる」69%、「やや不安に感じる」22%)。また「雇用の不安定さ」を「職場のストレス要因」として選択した人は、53%にのぼります。

 

 スクールカウンセラーは、「会計年度任用職員」として1年ごとの有期雇用契約で働いているため、毎年雇止めの不安を抱えながら働いています。しかも、民間の有期雇用労働者であれば、労働契約法が適用されるため、不合理な雇止めが禁止されますし、5年以上働けば無期雇用転換権を得ることができます。しかし会計年度任用職員に労働契約法は適用されず、何年働いても毎年不合理な雇止めの不安を抱えるのです。

 

 また雇用継続は学校長による業績評価によってなされることになっていますが、こうした権限を背景に、スクールカウンセラーに対して学校長から不当な圧力が加えられることもあります。アンケートの自由記述では、いじめ案件の報告数を過小に報告するよう圧力をかけられたといった声もありました。こうした圧力に逆らえば次年度以降の雇用が無くなるかもしれないという状況は、スクールカウンセラーの職責の全うを困難にしますし、児童・生徒の貧困、いじめ、不登校といった問題の解決を妨げることにもなるでしょう。

 スクールカウンセラーの雇用を安定させることで、学校長など学校内部の職員に対する外部性を担保することが、萩生田議員が重視している児童・生徒をめぐる問題の解決に不可欠だと思います。

 

②恒常的なサービス残業の存在

 

 当ユニオンのアンケートでは、職場のストレス要因として「無償の残業」を選択した人が57%にのぼり、持ち帰り仕事のある学校も50%にのぼります。働いている保護者の方も多いために面談は遅い時間になりがちであり、その後教職員への報告や業務記録の記入をしなければならないため、時間内に仕事が終わらないことが多くあります。また休憩時間を適切に取得できていないという学校も69%にのぼりました。現場のスクールカウンセラーが大変厳しい状況で働いている現状をご理解いただきたいと思います。

 

 

 

【国会での発言内容について質問】

 

1.今回の発言は、現在の相談状況の在り方や現職のスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの声が反映されているのか、不安を感じるものでした。萩生田議員は現職のスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの意見をどの程度聞き取った上で発言されたのか、お聞かせいただきたくよろしくお願い申し上げます。

 

2.今回の萩生田議員の発言から、萩生田議員は現在学校で勤務するスクールカウンセラーが児童・生徒や保護者の相談ニーズに応えることが出来ていないかのように認識されていらっしゃるのではないかと不安になりました。萩生田議員はスクールカウンセラーの専門性をどのように評価されていらっしゃるのでしょうか。現在のスクールカウンセラーの配置状況や相談活動の現状を踏まえ、その見解を教えていただきたく、よろしくお願い申し上げます。

 

3.いま、学校現場では「チーム学校」として他職種との連携と協働を重視し、複雑化した子どもを巡るさまざまな問題に対応する方針を継続しています。今回の萩生田議員の発言はその流れに大きく逆行する内容となっており、「チーム学校」体制を充実発展させるべく業務を遂行している一職種として、戸惑いを感じました。この点について、ご説明をいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

 

以上

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