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東京都スクールカウンセラー

第二回労働実態調査報告
 

心理職ユニオンは、2021年9月~10月に東京都スクールカウンセラー労働実態調査を行いました。今回のアンケートは、前回の調査から3年半近くが経過したこと、また2023年度末に東京都スクールカウンセラーが大量に雇い止めされるという大きな出来事が起きたことから、東京都SCの意識や専門性についての考え方を中心に再びアンケート調査を実施しました。(2025年1月8日から2025年1月31日にかけて実施)

 今回の調査では、615通の回答を得ることができました。ご協力いただいた皆様に感謝いたします。調査結果をもとに東京都SCがより働きやすく専門性を十分に発揮できる環境とするために、東京都に改善を求めてい来ます。

目次

調査の概要    

 1調査の目的  

 2調査期間

 3方法

 4調査対象

 5調査内容

 

結果の概要   

 1 基本属性     

  (1)性別

  (2)年齢

  (3)取得資格

  (4)資格取得後の臨床経験年数

  (5)都SCの臨床経験

  (6)現在の都SCとしての勤務校数

  (7)都SC以外の兼業の有無

  (8)兼業先の数

  (9)兼業の領域

 2 都SC同士の引き継ぎについて  

  (1)前任都SCからの引き継ぎの有無

  (2)これまで経験した引き継ぎの方法について

  (3)引き継ぎが行われたタイミング

  (4)引き継ぎがなかった場合の情報の把握方法

  (5)前任都SCから後任SCへの引き継ぎは業務上、どの程度重要か

  (6)SC同士の引き継ぎの重要性について

  (7)望ましい都SCの引き継ぎの形態について

  (8)東京都の浜佳葉子教育庁が答弁した引き継ぎの仕組みが整備されているか

   3 スクールカウンセラーの専門性について

     

   4 次年度の配置校通知の時期について

  (1)例年の次年度の配置校通知のタイミングについて

  (2)次年度の配置がわからないまま最終勤務を終えることについて

  (3)次年度の配置が分からないまま最終勤務を終える弊害について

  (4)次年度配置の通知はいつ頃に都SCの手元に届くことが望ましいか

  

 5 都SCの雇止め問題と雇用形態について

  (1)2024年度の都SC採用にあたり、大量雇止めがあったことを知っているか

  (2)都SCの雇止めに関する自由記述のまとめ

  (3)都SCは会計年度任用職員として雇用されることが適切か

  (4)都SCの不安定雇用によって引き起こされる懸念

   6 アンケート最終ページの自由記述 

   7 公認心理師・臨床心理士の比較検討

   8 都SCの現状と改善に向けてのポイント(​アンケート結果考察)

 

   1【引継ぎと配置校通知の時期について】 

     (1)引継ぎの現状について

  (2)配置校通知の時期について

  (3)年度の節目を安定的につなぐために

   2【専門性について】  

     (1)引継ぎの現状について

  (2)配置校通知の時期について

   3【雇用の安定化(会計年度任用職員の問題の改善)】  

  (1)雇止めの情緒的影響について

  (2)都SCの評価について

  (3)専門職の評価基準について

   4【雇用の在り方と専門性について】

  (1)望まれる雇用の安定化

  (2)雇用の在り方と専門性の関係

 

   5【現場のSCの声を今後のスクールカウンセラー活用事業に反映する】

※掲載している自由記述については、個人が特定されないように若干の編集を加えていますが、

趣旨や内容等を変えたものではありません。

調査の概要

1.   調査目的:東京都スクールカウンセラー(都SC)の雇用実態および不安定雇用に関する意識を把握するため。
2.    調査期間:2025年1月8日から2025年1月31日
3.    調査対象: 東京都の全公立小・中・高等学校のスクールカウンセラー
4.   方法:東京都公立学校スクールカウンセラー宛に調査用紙を郵送、返信用封筒で回収。 
5.    回答数:613件の回答が得られた。

結果の概要

1 アンケートに回答した都SCの基本属性

(1)性別

都SCの性別は女性が78%、男性が22%であり、前回調査時の結果と比較しても、男女の割合はほぼ変わっていない。

図1 都SCの性別

表1 性別の割合の比較

(2)年齢

20~29歳が3%、30~34歳が9%、35~39歳が13%、40~44歳が15%、45~49歳が14%、50~54歳が15%、55~59歳が11%、60~64歳が11%、65歳以上が9%であった。40代から50代前半の回答者が多かった。

図2 都SCの年齢

前回調査時の結果と比較すると、主に30代と40代後半は2024年調査では大幅減少。50–54歳、60–64歳、65歳以上は2024年に明確に増加している。年齢層全体の構成が高齢化傾向にある。

図3 年齢分布の比較 

表2 年齢分布の比較

(3) 資格取得

臨床心理士」および「公認心理師」の両方を持つ人が大多数である。

回答者のうち約2割が教職免許も併せ持つ。

図4 取得資格

(4) 臨床心理士・公認心理師資格を取得後の臨床経験年数
(都SC以外も含む)

1年未満が3%、1〜5年未満が18%、5〜10年未満が21%、10〜15年未満が22%、15〜20年未満が17%、20〜25年未満が12%、25〜30年未満が4%、30〜35年未満が1%、35〜40年未満が1%となっている。2021年度の結果と比較すると、10~15年の割合が大きく減少し、1~5年未満の割合が増えている。

図5 資格取得後の臨床経験年数

表3 資格取得後の経験年数比較

(5)都SCの臨床経験

1年未満が23%、1〜5年未満が16%、5〜10年未満が24%、10〜15年未満が22%、 15〜20年未満が9%、20〜25年未満が6%、25〜30年未満が1パーセントであった。

前回の調査結果と比較すると、1年未満の割合が大きく上昇し、新規参入者が急増。次に10–15年未満の層が増加傾向にある。
1-5年未満、5–10年未満の層は大きく減少、。長期経験層(20年以上)は微増~横ばいである。新しい人材の流入が目立つ一方、中堅層(5-10年未満)の比率が減り、ベテラン層が横ばい・微増となっており、雇止めの影響が疑われる。

 

図7 都SCの臨床経験

表4 都SC臨床経験年数 割合比較

図8 都SC臨床経験年数 割合比較 

(6)
現在の都SCとしての勤務校数

1校勤務が67%、2校勤務が20%、3校勤務が13%、となっている。

図9 都SC勤務校数

1校勤務が67%、2校勤務が20%、3校勤務が13%、となっている。

図10 都SC勤務校数比較

表5 都SC勤務校数比較

(7)
都SC以外の兼業の有無

 

94%が掛け持ちをしている。
前回の調査と比較しても大きな変化はない。

表6 兼務有無の割合比較 

(8)兼業先の数
 

1か所、2か所、3か所の回答がそれぞれ約3割でほぼ同数である。
前回の調査結果と比較すると、「3カ所以上」の構成比が3%増加し、最も割合が高くなっている。1校勤務が増え、若干の多拠点化の傾向がみられる。

図11 兼業先の数

1校勤務が67%、2校勤務が20%、3校勤務が13%、となっている。

表7 兼業先の数割合

(9)兼業の領域

掛け持ちをしていると回答した都SCの他の仕事の領域としては、「教育」が最も多く、次に「医療・保健」「福祉」となっている。

図12 都SC以外の仕事の領域

1校勤務が67%、2校勤務が20%、3校勤務が13%、となっている。

表7 兼業先の数割合

2 都SC同士の引き継ぎについて

(前任の都SCからの引継ぎを受ける立場からの回答)

(1)前任都SCからの引継ぎの有無

「あった」が56%、「無かった」が20%、「あった時も、無かった時もある」が24%であった。

図13 前任からの引継ぎの有無

(2)これまで経験した引継ぎの方法について(複数回答可)

書面での引き継ぎ最も多く、次に対面、電話と続いている。

図14 引継ぎの方法

(3)引き継ぎが行われたタイミング

業務時間内が49%、業務時間外が45%であった。ほぼ同数だが、約半数が業務時間外に行われていることがわかる。

図15 引継ぎが行われたタイミング

(4)引継ぎがなかった場合の情報の把握方向(複数回答可)

引継ぎがなかった場合、大半の都SCが管理職や担任から聞いたり、前任者の記録を元に前任者の業務内容やケースの状況を把握している。

図16 どのように前任者の業務を把握したか

(5)前任都SCから後任都SCへの引継ぎは業務上、どの程度重要か

「とても重要」が64%、「やや重要」が31%と、9割以上が引継ぎを重要だと認識している。

図17 引継ぎの重要性

(6)SC同士の引継ぎの重要性について

「とても当てはまる」「やや当てはまる」の回答割合が最も多かったのは「引継ぎすることで、児童・生徒・保護者の安心を確保するため」92%、次に「これまでの学校の相談体制について具体的に知るため」91%であった。

図18-1 前年度までのケースの流れを理解しなければ、質のよい継続した支援ができないため

図18-2 引継ぎすることで、児童・生徒・保護者の安心を確保するため

図18-3 これまでの学校の相談体制について具体的に知るため

図18-4 これまでの学校のSCへのニーズについて具体的に把握するため

図18-5 他機関連携について、具体的な情報を得るため

(7)望ましい都SCの引継ぎの形態について

約8割が対面(出張旅費と引継ぎで発生する時給を支給)が望ましいと回答。次に多いのが電話(時給支給)であった。

図19 望ましい引継ぎの形態

(8)東京都の浜佳葉子教育長が答弁した引継ぎの仕組みが整備されているか

「全くそう思わない」「あまりそう思わない」を合わせると87%となり、多くの都SCが浜教育長の答弁と同じ意識を持っていない。

図20 答弁にあった引継ぎの仕組みが整備されているか

​3  スクールカウンセラーの専門性について

「とても当てはまる」「やや当てはまる」に回答した割合が最も多かったのは、「SCが、教員と違う立場・役割であることが、子どもたちにとって重要である」の96%、次に多かったのは「SCの知識と技能は、校内の他の専門職種とは異なる」95%であった。専門性を考える際、そもそも他職種と異なる専門性をもっていること、さらにその役割の違いが生徒・保護者にとって重要であると認識している。

図21−1 SCの知識と技能は、校内の他の専門職種とは異なる

図21ー2 SCの役割は、他の職種(例えば教員)との兼務は難しい

図21-3 SCと教員では、子どもの理解や接し方が異なる

図21-4 SCが、教員と違う立場・役割であることが、子どもたちにとって重要である

4 次年度の配置校通知の時期について

(1)例年の次年度の配置校通知のタイミングについて(例年、通知は3月中旬ごろ )

通知の時期をいまよりも早めることを約9割が希望している

図25 より早い通知を求めるか

(2)次年度の配置がわからないまま最終勤務を終えることについて

配置がわからないまま最終勤務を終えることについて 9割以上が問題視している。

図26 配置がわからないまま最終勤務を終えることについて

(3) 次年度の配置が分からないまま最終勤務を終える弊害について

とても当てはまる」「やや当てはまる」が9割を超えている項目は「児童・生徒、保護者に次年度の支援等の見通しを伝えることができない」「次年度の学校内での具体的な支援体制について、教員やコーディネーターと見通しを持つことができない」という支援の連続性に関するものであった。ユーザーの視点に立っても、現在の通知の遅さが問題であることが明確である。

そして、都SCの視点では、「配置校が決まらないため、次年度の勤務日を決めることができない」が9割を超えている。SCの年収の見通しの問題もあるが、表6・図7の結果にもあった通り、複数の兼業先を持つ都SCが多いため、都SCの勤務日が決まらないことで他機関にも影響を与える可能性があることも考えられる。

図27-1 児童・生徒、保護者に次年度の支援等の見通しを伝えることができない

図27-2  次年度の学校内での具体的な支援体制について、教員や コーディネーターと見通しを持つことができない

図27-3 他機関との連携や引継ぎに問題が生じる

図27-4 次年度の配置校数がわからず、年収の見通しが立たない

図27-5 配置校が決まらないため、次年度の勤務日を決めることができない

(4)次年度配置の通知はいつ頃に都SCの手元に届くことが望ましいか

ほぼ半数が1月頃、33%が12月頃、16%が2月頃、現在のままで問題がないと思っているのは0%であった。

図28 次年度配置の通知が届くのに望ましい時期

5 都SCの雇止め問題と雇用形態について

(1)    2024年度の都SC採用にあたり、大量雇止めがあったことを知っているか

ほぼ100%が知っていると回答

 図29 大量雇止めがあったことを知っているか

(2)    都SCの雇止めに関する自由記述のまとめ

1. 突然の雇止め・雇用不安

前触れなく雇止めされたベテランを見て「次は自分か」と感じた。

「急に切られてもいいように仕事へ過度にコミットしない」との声。

2. 説明の欠如・選考の不透明さ

面接一本で決まる/現場評価が考慮されないことへの強い不信。

校長もA評価だったのに不採用。「都は説明すべき」との意見多数。

3. 通知時期が遅い

2〜3月末に不採用通知→就活が間に合わずローン・家賃が払えない。

補欠合格で3月下旬に突然採用連絡が来て準備も引継ぎも出来ない。

 

4. 生活・収入への打撃

週3校→0校、3校→1校などで年収が半減〜激減。

収入のめどが立たたないため、生活に困る。

 

5. 児童生徒・学校現場への影響

相談継続中の児童が人間不信で再来室しなくなった事例。

引継ぎ不全で学校が混乱、後任SCが「資料ゼロで手探り」になる例など。

 

6. 年齢バイアス・大量入替えへの疑念

50代以上・ベテラン中心に不採用との指摘。

経験豊富なSCが外れ、新人や元教員の未経験者が多数入ったことへの

不安。

 

7. 心理的ダメージとモチベーション低下

安心できない仕事だから長く続けられないとの声。

「専門職としての自尊感情が傷ついた」などの精神的ダメージ。

 

8. “適切な入替え”を評価する少数意見

トラブルを起こしていたSCが外れたのは現場にプラスとの声も少数。

大量一律の手法には賛同しないという但し書き付き。

(3)    都SCは会計年度任用職員として雇用されることが適切か

約8割が「適切だと思わない」と回答。

図30 会計年度任用職員という身分は適切か

(4)  都SCの不安定雇用によって引き起こされる懸念

都SCの不安定な雇用によって懸念されるテーマの中でも、「1年雇用では、長期の支援が必要なケースに対し、継続的な支援が断たれてしまう可能性があり問題である」、「1年雇用では、学校や地域の特徴をアセスメントし、そのアセスメントに基づいた介入により、学校の実態に即した相談体制を構築することは難しい」について、あてはまると答えた割合が92%となっている。ここでも、支援の連続性を確保し、学校やその地域を知り、相談体制にアプローチするには長期的な視点が必要と感じていることが伺われた。

図31-1  1年雇用では、長期の支援が必要なケースに対し、継続的な支援が断たれてしまう可能性があり問題であ

図31-2  1年雇用では、学校や地域の特徴をアセスメントし、そのアセスメントに基づいた介入により、学校の実態に即した相談体制を構築することは難しい

図31-3 雇用不安を抱えながら働くことは、SC自身のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている

図31-4 雇用更新されるかわからない中では、管理者の評価が気になって

6 アンケート最終ページの自由記述

自由記述全体の傾向

① 雇止め問題関連(220名)

主な傾向:雇止めに対する強い不安と怒り。

評価基準が不明確で、公募試験の公正性に疑念。

SCが「使い捨てのコマ」のように扱われているという感情的表現が多い。

「継続的な勤務ができないことで支援の質が下がる」との懸念。

 

(自由記述からの抜粋)

・私は雇止めをされた当事者ではないのですが、思うことはあります。専門職の評価は、専門職の人にしかできないと考えています。公募による選考も、公募によらない選考も、どちらもどの程度心理の専門職が設計・介入しているのかが重要ですし、知りたいと思っています。

・信頼性妥当性のともなった心理士の評価尺度が必要だと思います。

・雇い止めなど、雇用の不安定さにより、心理士がSCの仕事をやりたがらなくなると、SC全体の質の低下につながる恐れがある。これはゆゆしき問題だと思う。

 

・これからのライフプランを考えたときに、妊娠、出産、育児が身近なものになっていきます。そんな中で、今回とSCの雇止め問題が起こり、中には産休を取られた方も対象でいたと拝見しました。それを知り自分もいつか働くことが出来なくなってしまうのかもしれないと常に頭の中に不安があります。

 

② 都SCの雇用の在り方関連(212名)

主な傾向:常勤化や無期転換を望む声が非常に多い。

高い報酬への感謝と同時に、雇用が不安定であることへの不満。

「専門性を活かすには安定した雇用が必要」という声が強い。

 

(自由記述からの抜粋)

・心理支援は支援者の心理的な安定が基盤になって行われることが重要であり、それが今後の知識や技術の成長にとっても必要である。現状では更に質の良い支援が被支援者に提供されることはないだろう。

 

・安心して継続できる環境にして欲しい。相談業務に専念したいのに常に雇用に不安がある。管理職面談もないので、どう評価されているか不明、不安。

 

・異動希望が介護・保育の理由以外では出せなくなった。以前は異動したい理由を書けたが、今は通勤が遠い、校種を変えてほしいなど要望を伝えづらくなっている。

 

③ 都SCの雇用の更新の問題(50名)

主な傾向:配置校や通知時期が遅すぎることへの不満が集中。

引継ぎや事前準備が困難になるとの指摘。

「他の仕事を決められない」「生活設計ができない」といった現実的な不安。

 

(自由記述からの抜粋)

・合否や、勤務校通知が遅いことが、就活の上で非常に困ります。次年度も都SCでいられるのか、勤務校数はいくつになるのかわからずほぼ博打です。SC自身のメンタルヘルスや生活にも関わるし、clとのお別れの準備をどうするか、そこもネックです。

・都SCの不安定な雇用環境を是正していただきたいです。そもそも3月末にならないと次年度の勤務校数すら分からないなんてこと、非常識な世界です。

 

・SC同士の引きつぎがなくても管理職が把握しているため問題ないとの説明がなされることがありますが、実状に全く沿っておらず管理職経由の情報では対応が難しいと感じます。心理のアセスメントと視点が異なるため、本来必要な情報が欠落しやすい印象です。4月に公式の引きつぎが行える仕組みがあれば、異動になる時の気がかり、不安が減らせて有りがたいです。

 

・守秘義務を持つ1人職が急に異動になることの情報伝達の難しさを理解していただきたいです。本来であればclに対してお別れになる旨をお伝え→次のSCに情報をひきついで良いかcl本人に確認☆→ひきつぎ(→後任にひきついだ上での次回予約を入れてお別れ)が理想的ではないでしょうか。特に☆が大切だと思います。

7 公認心理師・臨床心理士の比較検討

本稿では、臨床心理士資格から公認心理師資格への移行に際して、臨床心理士資格者と公認心理師資格のみ有している者とでアンケート結果にどのような違いがあったのかを検討し、特徴的な結果が得られた項目について報告する。

8 都SCの現状と改善に向けてのポイント

 2021年度に実施した第一回労働実態調査から3年が経過した。その間に会計年度任用の更新期限を迎え、多くの都SCが公募による選考を受け、その結果雇止めの問題が発生した。今回は雇止め以降、初めての実態調査となった。

 前回の調査と比較し、都SCの属性の部分で大きな変化があったことが確認された。アンケート回答者から得られた結果の比較であるため、都SC全体の把握は出来ないが、現在の都SCの傾向がわかる。

 まず都SCの年齢が若干高齢化し、臨床経験、都SC経験は雇止めにより短くなっている。1校勤務が増え、兼業の状況や領域に大きな変化はないが、掛け持ちの数は若干の増加傾向である。背景として、公認心理師資格のみを有するスクールカウンセラーが4年前の2021年アンケートと比較しても3倍以上増えており、それとともに臨床経験や都SC経験の少ない都SCが増えたことがあげられる。公認心理師資格者は60歳以上が多く、スクールカウンセラー全体が若年化しているわけではない。

 現在、都SCは、臨床心理士と公認心理師の資格を併せ持つ都SCの経験者、2つの資格を持つ新規採用の都SC、公認心理師資格を持つ臨床経験が短い都SCによって構成されている。それぞれの資格は資格取得に必要なカリキュラム・実習経験そして臨床経験が異なるため、今後都SCの専門性の意識が変化していく可能性も考えられる。

 

 

1【引継ぎと配置校通知の時期について】

 

(1)引継ぎの現状について

今回のアンケートから、都SCが引継ぎを非常に重要視していることが明らかになった。特に子どもや保護者の安心の確保や支援の連続性、学校の相談体制の把握という意味で重視されている。しかし引継ぎについては半数が「あった」と答えているが、半数が「無かった」または「あった時も無かった時もあった」という状況であり、引継ぎが重要視されているにもかかわらず、丁寧に実施されているとは言い難い現状がある。

実施のタイミングも業務時間内と業務時間外は半数であり、引継ぎの機会の確保の難しさ、業務外に実施せざるを得ないことが明らかになった。引継ぎが全くない状況で、新しい勤務校での業務を開始することは、手探りで支援を開始することと同じである。よって、引継ぎがない場合は、書面や教員からの聞き取りなど、積極的に情報を収集する努力をしていることも確認された。

 

  子ども・保護者の利益、そして都SC自身がスムーズに勤務を始める上で、引継ぎを安定的に実施できるシステムを検討する必要性がある。浜教育長は答弁において、引継ぎの仕組みが整備されているとあったが、今回の実態調査においては87%の回答者が仕組みは整っていないと答えている。更に、専門職である都SC同士の引継ぎでないと、共有が難しい情報があることが自由記述の回答からも寄せられている。教職員全体で引継ぎをする仕組みが整うことは必要と考えるが、それのみで心理支援の引継ぎが十分になされるものではないと考える。

 

  現状では書面での引き継ぎが多いが、理想的には対面(給料が支給される)を希望する都SCが多い。しかし引継ぎを勤務日(業務時間内)に実施することは現実的には非常に難しく、出勤日を柔軟に調整することもできない為、対面は理想ではあるが実施は難しいのではないかと感じている都SCも多いようである。同時に引継ぎは重要な情報を共有する作業であるにもかかわらず、勤務時間外に実施する状況について、情報の扱いや管理という意味で不安を訴える記述も見られた。

 

 (2)配置校通知の時期について

  また引継ぎを難しくしている要因としての配置校通知の遅さの問題もある。現状では、配置校を知ることなく勤務が終わることもあり、多くの都SCが問題視している。また配置が遅いことについての弊害として、子どもや保護者に支援の見通しを伝えたり、支援体制についての見通しも持てない点が挙げられ、都SCの9割が今より早い通知を望んでいる。

 

都SCは常に継続的できめ細かな支援を求められている。都SCの選考実施要項においても「勤務する日は、職務の性質上、児童・生徒へのカウンセリングやアセスメント、教職員に対するコンサルテーションを継続的にきめ細かく行う必要があるため、配置校の予定や都合と照らして、年間を通して偏りが無いように設定しますので、あらかじめご了承ください」という一文がある。しかし、年度末という大きな節目に当たっては、体制が全く整っておらず、継続性やきめ細かさを全く求めていないかのような設計になっている。年度末の時間的なゆとりもない中で、都SCがそれぞれの工夫や努力によってこの問題に対処しているのが現状である。

 

 また9割が兼業している状況において、3月の通知はあまりに遅く、他の勤務先との調整が出来ず、現実的に不利益が生じることもある。年収の見通しが立たないことも問題だが、勤務曜日が定まらない為、他機関から勤務日の確定を求められても回答に困ることがある。基本的に都SCは新しい勤務校において、都SC側が希望する曜日で勤務を開始することが出来るとされているが、実際は学校側の希望(校内委員会実施日、他のSCとの曜日の調整等)を管理職から出されることが多く、その調整でトラブルになることも多い。

 

また、都SCが子育て中の場合、保育園の確保の問題も自由記述において指摘されている。産休のみで育休制度がないなど、女性が多い職場であるにもかかわらず、子育てをしながら都SCとして勤務するのは非常に困難な状況が続いている。

 

(3)年度の節目を安定的につなぐために

 今回のアンケートでは、配置校通知の時期について半数の都SCが1月を、3割が12月を希望している。関わる生徒や保護者に、現在の関わりが年度末で終わることを伝え、担当者が変わることの不安を扱い、引継ぎを希望するかどうか、希望する場合はどのような情報を引き継ぐかについて話し合うには、面接の頻度にもよるが2~3カ月は必要であろう。

 また、新旧の都SCが日程を調整し、情報を共有することが出来る時間を確保し、また、その時間が勤務日以外であったとしてもそれを勤務として認めるような仕組み(引継ぎにかかる時間に時給が発生する仕組み)を整える必要がある。

2【専門性について】

 

(1)都SCの専門性について

  今回のアンケートでは、都SCの専門性、そして他職種との違い、兼業の可能性について触れている。多くの都SCが、専門性という点において校内の他職種と異なること、他職種との兼業は難しいこと、子どもや保護者にとって立場や役割が違うことが重要であると考えている。都SCの専門性は心理臨床の知識と技術の上で成り立っており、他職種とは違う立場で関わることが、都SCの独自性であり機能であると言える。しかし、「SCと教員では、子どもの理解や接し方が異なる」という点においては、半数が「とても当てはまる」と答え、38%が「やや当てはまる」と答えており、「とても当てはまる」の回答が他の質問項目よりも10%少なかった。専門性や立場は違えど、子どもの理解や関わり方という側面では明確な違いだけではない、共通した側面が増えてくるのかもしれない。

 

(2)公認心理師資格者・臨床心理士資格者にとっての専門性について

  現在、都SCは公認心理師、臨床心理士、の2つの資格が関わっており、両方の資格を併せ持つもの、公認心理師の資格のみを持つものなど、その背景はさまざまである。それぞれの資格は、現在の心理職の専門性を証明する重要な資格であるものの、その専門性には違いがある。今回、それぞれの資格を持つ者同士の比較をしたところ、若干ではあるが、公認心理師資格者は他職種との専門性の違いについての認識が明確ではない割合が多かった。

公認心理師資格者の都SCは50歳以上が多く、60代前半が一番多い。恐らく、教員や他の近接領域での支援を経験し、資格を取得後、都SCとなったケースが多いのだろう。教員や近接領域での経験が多い場合、それらの経験を活かしたSCの在り方になるのは自然なことであり、都SCの業務の共通点や重複する部分を認識することが多いのかもしれない。

  

  専門性の認識、都SCに求められる専門性とは何か、それは都SCの在り方にとって非常に重要なものである。都SCの構成員によって、その専門性のイメージの違いがあった場合、その違いを自覚しないままに制度を運用すると、気がつかないうちに都SCの在り方、都SCとは何をする専門職なのか、が微妙に変わっていく可能性がある。

 

 

3【雇止め問題について】

 

  2023年、会計年度の更新が終わり、多くの都SCが公募による採用面接を受けた。そこで雇止めにあった都SCは250名。ユニオンにも相談が相次いだ。雇止めにあった都SCは深く傷つき、怒りと自責の感情を抱え深刻な心理状態の中にいたが、学校においては引継ぎの作業を、生活面では収入の確保のための就職活動など、対処に追われた。現在、東京都を相手に訴訟を継続しているが、このようなことは二度とあってはならないと考えている。

 

 (1)雇止めの情緒的影響について

 2023年の雇止めの問題は、アンケート回答者の全員が把握をしていた。同時に、雇止めの問題は、現在都SCとして勤務している人々にも大きなショックを与えている。自由記述の多さからもそれが伝わってくる状況であった。全ての記述を紹介することはかなわないが、自分たちがコマのように扱われている怒り、次は自分が雇止めに遭うのではないかという不安、これらの感情を抱えながら勤務をする葛藤、などが多く記述されていた。

心理職は、自身の雇用が不安定なことに疑問を持たなかったり、昔から低待遇の職種だからと安定をあきらめる風潮が、以前はあったように思う。しかし、最近は、日々の業務において丁寧な支援を求められていながらも、自身が労働者として丁寧に扱われていない状態を問題視する声が上がるようになってきた。今回、雇止めに遭っていない都SCも、傷つきを経験している人が非常に多いと自由記述から感じた。このような傷つきを個人で抱えて耐えるのではなく、こうして自身の思いをアンケートに書き、変化を訴えるようになったこと自体が、心理職の大きな変化だと思っている。雇止め問題は、雇止めに遭ったSCだけの問題ではなく、現在現場で支援にあたる都SCに大きな情緒的影響を与えていることを、雇用主は自覚するべきである。

 

 (2)都SCの評価について

 情緒的な記述の次に多かったのが、評価の問題である。公募による採用の場合、日々の勤務評価は一切加味されず、短時間の面接のみで評価されたことの不信感、怒りは強い。また、採用に合格しても、都教委がどのようなSCを求めているのかが分からない、何を基準に選ばれ、不合格だったSCは何が問題で落とされるのか、分からないまま日々の仕事に向き合うことの問題も指摘された。

   

同時に専門職の評価がどうあるべきなのか、という点についても意見が多かった。都SCの評価はサービスを受ける側(学校・子ども・保護者)の評価があってしかるべき、という視点と同時に、専門職以外の人が専門職を正しく評価できるのか、という指摘も多い。特に今回の採用面接は、漠然とした捉えどころのない質問が多く、何を問われているのか、回答をどのように点数化しているのか、疑問に思う点も多かった。

 

 会計年度の公募によらない採用の際は、校長評価によって合否が判定されるが、その評価項目も「業務遂行能力」「勤勉性」「積極性」「協調性」であり、心理の専門性を評価しているものではない。これらの評価のみで合否が決まることは問題である。管理職の面談もないため、自身の評価を知る機会もなく、何か問題があったとしても改善のしようもないという声もあった。

 

 また今回の調査において散見された声として、「現任都SCの適性が疑われる場合もあり、採用段階において適切な評価と合否判定がなされるべきだ」といったものがあった。これまで採用試験を受けてもなかなか合格する機会が無かったという都SCも多く、これらは昨年度から新規採用され勤務が始まった回答者からの声である。SCとして問題があり改善されない場合は、雇用の継続自体が検討される必要がある。もしも実際に適性が疑われるSCが長期にわたって雇用されていたならば、管理者としての学校側にも責任があるのではないだろうか。都SCの勤務評価上、改善すべき点が認めれた場合に、管理職から都SCに適切なフィードバックが行われることで、適性が疑われる状態で長期にわたって雇用される状況を防ぎ、そのような事態に対する不満を減じることができるものと考える。

 

 (3)専門職の評価基準について

 都SCの専門性を評価する方法を、心理職側から提示する必要があるのではないか。自由記述にもみられたが、専門職の専門性の評価を教育委員会が作成するには限度がある。なぜなら、当然のことではあるが、教育委員会は教育が専門であり、都SCとは専門領域が違うからである。教員とは違う立場の専門職を入れることの価値を高めるためにも、心理職が「機能しているSCとはこういうものであり、その評価軸はこれである」と明確にする必要がある。またそれによって、現在の都SCが抱えている「都教委に求められているものがわからない」「あるべきSC像が見えない」状況に、一つの方向性が打ち出されるのではないだろうか。

 

 

4【雇用の在り方と専門性について】

 

 (1)望まれる雇用の安定化

 以前から都SCの雇用の安定を望む声はあったが、今回雇止めの影響もあり、更に安定化を望む声が多かった。また、安定化の方向性については、以前は雇用年限を撤廃し非常勤のまま継続的に働くことを望む都SCが多かったが、今回は常勤化を望む声も散見された。

  

 自由記述から見ると、これまで非常勤で勤務し、今後も様々な領域の仕事を経験しながらSCとして勤務を希望する場合、非常勤のまま雇用期限の撤廃を望む場合が多い。出産、子育て、介護など、家庭での労働を並行して担っている都SCも多く、その場合、週5日の勤務は難しいため、もし常勤化した場合はSC勤務をあきらめざるを得ないという意見もあった。

 常勤化を望む声としては、雇用が安定する、子どもや保護者のニーズを満たすことが出来る、などである。SCになるために心理職になったという若手も増えてきており、今後、長期的に学校現場での臨床を望んでいる場合、常勤での雇用を求めるようである。

 

 

  (2)雇用の在り方と専門性の関係

 雇用のあり方によって、SCの役割は変わり、結果としてその専門性の在り方も変化すると思われる。現在は週1日または2日と限られた曜日に勤務し、外部性を維持しながらカウンセリングやコンサルテーションなど高度に専門性の高い業務に絞ってサービスを提供している。子どもや保護者にとっては、SCが学校に「いる日」と「いない日」があり、臨床的にはSCの不在の日があることが前提となった臨床の在り方によって支えられている。コンサルテーションにおいても、SCが不在の期間、教員が子どもや保護者と安定して関われることを意識して実施することになる。

 

 常勤化された場合(非正規の週5日の場合も、正規雇用の場合もあるが)、SCは常に学校に「いる」存在となり、必要があれば会える対象になる。1つの学校に週5日勤務する場合は、業務の幅も広がることになる。カウンセリングやコンサルテーション以外にも、様々な業務を教員と一緒に担う。専門的な業務以外にも、支援にまつわる事に幅広く関わることになる。同時に、常駐の場合は外部性の維持か困難になることが懸念され、課題となるであろう。

 

 現在の給与水準は、非正規である現在の業務内容に対して設定されているものであり、もし常勤化された場合の給与水準はどのようになるのか、現段階では分からない。一般的に、専門以外の業務が業務範囲に入った場合、給与水準は下がることになるため、常勤化を希望する場合、どのような業務内容に対してどのような雇用条件、待遇を現在の都SCが期待するのかも含めて検討する必要があるのではないか。

 

 従来の雇用の在り方は、外部性があることで保たれる専門性もあること、また都SC自身が教育分野以外の様々な領域で臨床経験を積み重ねていることで、多様的で質の高い心理支援が出来るというメリットもある。常勤化された場合の幅広い支援と同様、従来の雇用の在り方のメリットも活かせる都SCの在り方、雇用の在り方を検討していくことが望まれる。

 

 

5【心理職からの発信の重要性】

 

   前回の実態調査に続き、今回も多くの声が寄せられた。前回は、「いつ雇止めに遭うかわからないが、自分の仕事にやりがいと誇りを持つ、都SCの思いや悩み」が浮き彫りになった調査であった。しかし今回は雇止めの問題に触れ、「コマでしかないという傷つき、いつ切られるかわからないという不安、支援の継続性は意識しつつも雇止めに遭う可能性を前提とした働き方や支援の仕方にしておくことによって身を守ろうとする様子」であった。いかに雇止め問題がSCの在り方に大きな影響を与えたか、スクールカウンセラー活用事業にまつわる様々な団体が真摯に向き合う必要がある。

 

 都SCの評価の問題、配置校通知の問題、引継ぎのシステム、望ましい雇用形態等、現場のSCが感じている様々なテーマに対し、心理職全体で取り組み、発信をしていく必要があるのではないだろうか。都SCの専門性や待遇への思いが、資格、経験年数、キャリアによって違ってきており、以前のように一つの傾向としてとらえられる状況ではなくなってきている。

 

    都SCの雇用主は同じ心理の専門家ではない。そのため、都SCのことについては心理職側が積極的に雇用主に伝え、その活用法、評価法、望ましい待遇について話し合っていくプロセスが求められる。1995年にスクールカウンセラー活用事業が始まり、今年で30年になる。少人数から始まったこの事業は、現在1700人規模の事業となっている。ここまで事業が拡大してこられたのは、雇用主と各団体との関係性があったからこそである。そこには、私たちには見えない交渉や苦労もあったと思われる。今後は、雇用主に雇ってもらい使ってもらっている専門職というニュアンスから脱却し、様々な団体(職能団体・学術団体・労働組合、等)が、それぞれの機能を発揮しつつ、連携を取りながら積極的に発信し交渉することが望まれるのではないだろうか。

以上です。最後までお読みいただきありがとうございます。
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